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(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

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《第3話》 【スコット戦】

《第3話》 【スコット戦】

 グループレッスンだった。
日本人の生徒3人と外国人教師1人。
その外国人教師は、スコットという20代半ばのアメリカ人だった。

政治学を勉強するため、日本の大学に留学しているのだそうである。
英会話スクールの教師は、アルバイト・・・だそうである。おとなしくて、まじめな印象がする人だった。

 そのスクールでは、レッスン前に英語で自己紹介と世間話をすることになっていた。
外国人との会話に慣れるためらしいが、日本人どうしの、あの店はうまい だとか、また巨人が負けた などと言う話を英語でしても、つまらない。

どうしても、俺の場合、話が濃くなる、きつくなる。

 スコットが、「アメリカの都市では、どこが好きですか?」と聞いてきた。
ほかの日本人は、「ロサンゼルス」「サンフランシスコ」などと、答えていたが、俺は「ニューヨーク サウスブロンクス」と答えた。
治安の悪さで有名だが、なぜか、なぜか気になるダウンタウンのハーレムである。
まだ行ったことはないが。

スコットは、露骨にがっかりした様子を見せた。
ほかの生徒が「どうしたの?」と聞いた。
スコットは「サウスブロンクスはたいへん危険なところだ」と答えた。
俺は、「おまえもか?」と聞いた。
スコットは、身をのけぞらせて、「No.No.私は安全だ」と言った。
あっ、そう。

 気を取りなおしたのか、スコットは、次に「アメリカの有名人では、誰が好きですか?」と聞いてきた。
英会話指導マニュアルに載っていそうなことを言う。
マニュアルに顔写真入りで、紹介されていそうなやつだ。
日本では、紋切り型という。英語では、たしかステレオタイプというはずだ。

小声で言ってみた。「ステレオタイプ!」
スコットは、ためいきをついて、うつむいた。
あれ、向かってこないんだね。
ほんとにまじめな人なんだ。
へー、そんなアメリカ人がいたんだ。まあ、いいか。

で、「どうぞ」と、手のひらを上に向けて、前に出した。
当然だが、これは、アメリカ人にも通じるらしい。

スコットは、また気を取りなおして、もう一度、「アメリカの有名人では誰が好きですか?」と聞いた。
今度は大きな声で、なにかを吐き出すように。
怒ったの?。

 ひとりの日本人が「アーノルド シュワルツネッガー」と答えた。
うーん、無難なところだね。
 スコットのご機嫌がよくなった。
「そう、彼は有名な映画俳優だ」。まっ、そうだね。

 もうひとりの日本人が「ジョン レノン」と答えた。
ふーん。俺は口をはさむことにした。

「ジョン レノンはイギリス人だ。ジョン レノンを殺したのは、アメリカ人だけど」

 スコットがあわてふためいて、こう言った。
「ジョン レノンは、アメリカに長く住んでいた。だから、彼は、アメリカ人と同じだ」

 昔の日本に、“仲人”という種類の人がいた。
若夫婦のけんかの仲裁は、スコットみたいにしたんだろうか。
めんどくさいから、はっきり言った。

「アメリカ人は、アメリカが好きで住んでいたジョン レノンを殺した。それは、アメリカ人の怒りか?喜びか?」
スコットは、下を向いて「それは、むずかしい」と言った。
むずかしいか?だいじょうか?

「次は、俺に聞いてくれよ」と言ったら、また
「アメリカの有名人では、誰が好きですか?」
「アル カポネ」と答えた。

スコットは、困ったように聞いた。
「彼は、ギャングだ。なぜ、彼が好きなんだ?」

適当にアメリカの悪いやつの名前を出しただけだもん。「強いから」とだけ、言っておいた。スコットは、「アルカポネは強いけれど、彼は悪人だ」と、突破口でも見つけたように、強く言ってきた。
次は俺の番か。
「それは、アメリカと同じだ。アメリカは、昔、広島と長崎に原爆を落とした。そしていまでも、原爆をたくさん持っている。強くて悪い国だ。だから、好きなんだ。逆に聞きたい。なぜ、アメリカは、日本に原爆を使い、いまでも、たくさんの原爆を持っているのか?」

スコットは、うつむき、小声で言った。
「むずかしい」

「むずかしいか?おまえはふたつのうちからひとつ選べる。原爆を持つ意味を知るか、政治学の勉強をやめるかだ」

 スコットは、テーブルに額がつきそうなほど、頭をたれた。
 あー、すっきりした。

さあ、英会話のレッスンをはじめましょー。

 


 


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